ブログ

被相続人がフィリピン国籍である場合の相続

相続の手続きをする中で、手続当事者(相続人や被相続人)が外国籍であったり日本国籍だが外国に居住をしていたりする相談も多くあります。この場合、各国で法律が異なるため相続の手続きも異なります。これまでのブログで「外国籍の人の相続手続き」について書いていますが、今回は、フィリピン国籍(以下「フィリピン」という。)の人の相続について書きたいと思います。

【準拠法を確認する】
まず「準拠法」を考えなければなりません。これまでのブログにも書いた様に、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第36条に「相続は被相続人の本国法による。」と定めていますので、フィリピン人の相続ではフィリピンの法律を確認する必要があります。では、フィリピンの法律にはどの様に規定されているのでしょうか。フィリピン民法16条「相続に関しては動産不動産を問わず、被相続人の本国法を適用する」と規定していますので、フィリピンの法律に従うことになります。しかし、フィリピンは、私的身分関係に適用される法律が、宗教によって異なる「人的不統一法国」であるため、相続に関して原則的にフィリピン民法が適用されますが、イスラム教徒の場合はムスリム身分法が適用されることになるため注意が必要です。本日は、原則に従い「フィリピン民法」が適用される場合の相続について検討したいと思います。

【法定相続人の範囲と順位、相続分の確認】
フィリピン民法では、法定相続人とその相続分について、「遺言がある場合」と「遺言が無い場合」とに分けて規律しています。遺言が無い場合のフィリピン民法の規定は非常に複雑ですが、まとめると下記の様になります。

【遺言がない場合】
<第一順位>嫡出子がある場合

被相続人の卑属のうち嫡出子がある場合は、その嫡出子が第一順位の相続人となり、併せて生存配偶者も相続人となります。複数の子の相続分は等分となります(フィリピン民法980条)。ただし、子の中に嫡出子と非嫡出子が居る場合、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分になります(フィリピン民法983条が準用する895条)。また、生存配偶者は、被相続人の卑属とともに法定相続人になりますが、その相続分は各卑属の相続分と同一になります。つまり、卑属の人数が多くなる程、配偶者の相続分は少なくなっていきます(フィリピン民法996条)。この点は、日本の相続法と大きく異なる点です。例えば、法定相続人が配偶者と嫡出子3名である場合、配偶者と各嫡出子の法定相続分は、それぞれ4分の1なります。なお、配偶者が被相続人と法律に定める手続きによる別居(フィリピンには離婚制度はありません。)をしていた場合、配偶者に相続分は認められません(フィリピン民法1002条)。
<第二順位>嫡出子が居ない場合
被相続人の卑属のうち嫡出子が居ない場合は、尊属が第二順位の相続人になります。しかし、非嫡出子が居れば、尊属と共に相続人になります。また、生存配偶者も相続人になります。
被相続人に嫡出子が居ない場合、被相続人の父母が相続人となり (フィリピン民法985条)、父母が不存在の場合は、被相続人の祖父母が相続人となります(フィリピン民法987条)。父母や祖父母など相続人となる尊属が複数居る場合は、尊属の相続分は等分となります(フィリピン民法986条)。また、生存配偶者が居る場合は、直系尊属とともに相続人となり、この場合の直系尊属と生存配偶者の相続分は各2分の1となります(フィリピン民法997条)。そして、非嫡出子も居る場合は、非嫡出子も共に相続人となり、この場合は、直系尊属が2分の1、配偶者は4分の1、非嫡出子も4分の1が相続分となります(フィリピン民法1000条)。
<第三順位>嫡出子も尊属も居ない場合
被相続人の嫡出子及びその卑属も、直系尊属も居ない場合は、被相続人の非嫡出子が第三順位の相続人となります(フィリピン民法988条)。非嫡出子の代襲相続も認められています(フィリピン民法989条)。また、生存配偶者が居る場合は、非嫡出子と共に相続人となり、この場合の非嫡出子と生存配偶者の相続分は各2分の1となります(フィリピン民法998条)。
<第四順位>嫡出子も尊属も非嫡出子も居ない場合
被相続人に嫡出子・非嫡出子及びその卑属、直系尊属も居ない場合、生存配偶者が第四順位の法定相続人となります(フィリピン民法995条)。ただし、被相続人に兄弟姉妹が居る場合は、兄弟姉妹も相続人となります。その場合の生存配偶者と兄弟姉妹の相続分は、各2分の1となります(フィリピン民法1001条)。
<第五順位>嫡出子も尊属も非嫡出子も配偶者も居ない場合
被相続人に嫡出子・非嫡出子及びその卑属、直系尊属、配偶者が居ない場合、傍系血族(傍系姻族)が第五順位の法定相続人となります(フィリピン民法1003条)。全血の兄弟姉妹のみが相続人となる場合、各自の相続分は等分となります(フィリピン民法1004条)。全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹が相続人となる場合は、全血兄弟姉妹の相続分は半血兄弟姉妹の倍となります(フィリピン民法1006条)。

【遺言がある場合】
上でも書きましたが、フィリピン民法では「遺言がある場合の法定相続人とその相続分の規定」と「遺言が無い場合の法定相続人とその相続分の規定」と分けて規律しています。遺言がある場合の法定相続人という考え方は少し分かりにくいですが、日本における遺留分権利者に類似(遺言者がどの様な遺言を書こうとも、処分することが許されない絶対的な相続分)するものと言えます。遺言がある場合の法定相続人は以下のとおりとなります(フィリピン民法887条)。
① 嫡出子又はその卑属
② ①が居ない場合には嫡出子の親又はその尊属
③ 配偶者
④ 認知された婚外子又は法的擬制による婚外子
⑤ その他の非嫡出子
なお、上記の①~⑤は「順位」を定めたものではありません。例えば、①の卑属と③の配偶者の両者が存するときは、両者とも法定相続人となります。但し、①の卑属と②の尊属だけは両立しません。②のみ「①が居ない場合」に限って相続人となります(フィリピン民法887条)。
また、④の「認知された婚外子」とは、出生時に両親の婚姻が成立しておらず、かつ両親によって認知されている子を意味し、「法的擬制による婚外子」とは、無効な婚姻によって懐胎した子及び取り消し得る婚姻の無効判決の後に懐胎した子を意味します。⑤の「その他の非嫡出子」とは、姦通・近親相姦によって出生した子を意味します。
<A:①のみの場合の法定相続分>
嫡出子又はその卑属の法定相続分は2分の1になります(フィリピン民法888条)。この2分の1の法定相続分は、遺言者がどの様な遺言を書こうとも処分することが許されない絶対的な相続分であり、遺言者は、この法定相続分を除く残余部分のみを遺言によって処分することができます。
<B:②のみの場合の法定相続分>
嫡出子の親又はその尊属の法定相続分も2分の1になります(フィリピン民法889条)。その意味は①の法定相続分の解説と同様です。
<C:③のみの場合の法定相続分>
法定相続人が配偶者のみの場合、配偶者は相続財産の2分の1を相続します(フィリピン民法900条)。
<D:⑤のみの場合の法定相続分>
法定相続人が非嫡出子のみの場合、非嫡出子は相続財産の2分の1を相続します(フィリピン民法901条)。
<E:③と①の場合の法定相続分>
法定相続人が配偶者と嫡出子又はその卑属1名の場合、後者の相続分は上記のとおり2分の1、配偶者の相続分は4分の1になります(フィリピン民法892①)。残りは遺言者が自由に処分することのできる遺産となります。また、配偶者の他に嫡出子又はその卑属が複数名存在する場合、配偶者は嫡出子又はその卑属と同等の割合で相続します(フィリピン民法882②)。例えば、嫡出子が3名の場合は、上記Aの法定相続分で書いたとおり、嫡出子又はその卑属の全員で2分の1が法定相続分となりますので、3名の場合は子1名当たり6分の1となり、配偶者の持分も6分の1となります。この様に、嫡出子又はその卑属の数が増えるほどに、生存配偶者の相続分は減っていくことになります。
<F:③と②の場合の法定相続分>
法定相続人が配偶者と直系尊属の場合は、配偶者の法定相続分は4分の1となります(フィリピン民法893①)。
<G:③と⑤の場合の法定相続分>
法定相続人が配偶者とその非嫡出子の場合は、配偶者と非嫡出子の相続分はそれぞれ3分の1になります(フィリピン民法894条)
<H:④と①の場合の法定相続分>
法定相続人が認知された婚外子又は法的擬制による婚外子と嫡出子の場合、前者の相続分は後者の2分の1になります(フィリピン民法895条)。
<I:⑤と②の場合の法定相続分>
法定相続人が非嫡出子と直系尊属の場合、直系尊属が2分の1を取得し、非嫡出子は4分の1を取得します(フィリピン民法896条)。
<J:⑤と②と③の場合の法定相続分>
法定相続人が非嫡出子・直系尊属・配偶者の場合、直系尊属が2分の1、非嫡出子は4分の1、配偶者は8分の1を取得します(フィリピン民法898条)。

【法定相続人が誰になるのかを特定する資料の確認】
<死亡証明書、出生証明書、婚姻証明書>

フィリピンには戸籍制度、住民登録制度がありませんので、相続を証する書面としては、これまでのブログに書いているアメリカ合衆国籍・カナダ国籍の人の相続と同じになりますので参照してください。

<外国人登録原票>
在日外国人に対して「外国人登録原票」という制度がありました。平成24年7月9日に廃止されていますが、外国人登録原票には、出生地や国籍、住所や居所、婚姻や子供などの親族関係が記載されているので、平成24年7月8日以前に来日している場合は、相続関係書類として取得する必要があります。

相続手続きと聞くと、亡くなった後の手続きと思われがちですが、上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?ご自身やご自身の周りに外国籍の方が居られ、相続が発生した場合、日本の法律が適用されるのか、適用されないのかを分かっていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。
相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

関連記事

  1. 被相続人が朝鮮民主主義人民共和国の国籍である場合の相続
  2. 遺言はどうやって作るの?
  3. 相続対策 <①相続税対策>
  4. 遺産の分割方法は決まっているの?
  5. 遺留分って何?
  6. 遺言で不動産を記載する場合に注意が必要だと知っていますか?
  7. 被相続人が大韓民国の国籍である場合の相続
  8. 相続人に関する用語と相続の順位
PAGE TOP