ブログ

行方不明の相続人が居る場合

 ある人が死亡すると相続が開始します。これは被相続人が死亡したことを相続人が知っている・知らないに関係なく開始します。そして、誰が相続人にあたるのかは法律で定められていて、相続人が一人であれば「遺産分割協議」は必要ありませんが、複数の相続人があり「遺産分割協議」を行う場合は共同相続人「全員」でしなければなりません。
 相続財産が現金などの可分財産である場合は、相続人が複数であったとしても法律で定められた法定相続分で分割手続きを行えばよいのですが、不可分財産や不動産など、共有にしてしまうと処分が困難となる場合は「遺産分割協議」を行う必要があります。
 しかし、共同相続人の中に長期間の行方不明者がある場合、共同相続人「全員」で遺産分割協議を行わなければならないため、その者の生死が判明するまで遺産分割を待たなければならず、他の相続人が困る状態が生じます。
 私が相続の仕事をする中で「数名いる相続人のうち、音信不通で連絡が取れない相続人がいる。」とか「相続人の一人は死んでいて、その子供も海外に行って連絡がとれない。」という話から「彼(彼女)は、自ら音信不通だから連絡をする必要もないし、相続人として扱う必要もない。」と相談者に言われることがあります。しかし、そんなことはありません。親戚・関係者に連絡を取ってもらい居場所が分かったこともありますし、SNSで繋がってスムーズに手続きできたことも多くあります。様々な手段を用いて行方不明者を探す努力をしてみても共同相続人のうち行方不明者がある場合は、手続きを止めなければならないのでしょうか。
 この様な場合は、以下のいずれかの方法での手続きが可能です。
  1.生死不明者に対する失踪の宣告
  2.不在者財産管理人を選任
  3.遺産分割の審判申し立て
 では、これらは、どの様な手続きなのでしょうか。

1.失踪宣告
<1-1.失踪の宣告の意義及び要件>
 失踪の宣告とは、不在者の生死不明状態が長く続いた場合、家庭裁判所が失踪の宣告をすることにより、不在者について死亡したのと同様の効果を生じさせるものです。失踪の宣告を受けるためには、以下の要件が必要となります。
 1.不在者の生死が明らかでないこと
 2.この状態が7年間(普通失踪の場合)、又は1年間(特別失踪の場合)継続すること
  (音信不通などで生死不明な場合は普通失踪といい、それに対して戦地に臨んだ者、沈没した船舶中にあった者、その他死亡の原因となる危難に遭遇した者など、生命の危機を伴う危難に遭った者の場合の失踪を、特別失踪といいます。)

<1-2.失踪宣告の手続き>
 失踪の宣告は、失踪宣告をすることにより法律上の利害関係をもつ者(不在者の配偶者、法定相続人、親権者、後見人、不在者財産管理人、保険金の受取人など)が、家庭裁判所に申し立てをすることにより始まります。家庭裁判所は、申し立てを受けると失踪の宣告の要件を備えているのかどうかにつき、調査・審理し、要件を備えていることが認められるときは、公示催告の手続きを行います。公示催告の期間は、普通失踪が3ヶ月以上、特別失踪が1ヶ月以上で、期間満了日までに不在者と不在者の生死を知る者に対し、生存の届出をするように催告します。この催告は家庭裁判所の掲示板に掲示し、官報にも掲載して行います。そして、その催告期間内に届け出がなかった場合に、初めて家庭裁判所により失踪宣告がなされます。

<1-3.失踪の宣告後の遺産分割協議>
 失踪の宣告の審判が確定すると、失踪者は死亡したものとみなされます。従って、失踪者に代襲相続人(相続人)がある場合にはその者を加えて遺産分割協議を行うことになります。

2.不在者財産管理人選任
<2-1.不在者財産管理人の選任方法>
 不在者とは、従来の住所や居所を去って、容易に帰ってくる見込みのない者を不在者と言います。必ずしも行方不明または生死不明であることを必要としません。
 共同相続人の中に不在者があるときは、その不在者の代わりとなるべき財産管理人を関与させ「遺産分割協議」を進めることができます。
 すなわち、不在者が自ら財産管理人を置いている場合には、その財産管理人と、不在者が自ら管理人を置かなかった場合には、共同相続人が利害関係人として家庭裁判所に財産管理人選任の請求をして、その結果選任された財産管理人と遺産分割手続きを進めることができます。そして、この遺産分割手続きは、協議分割、調停分割、審判分割の3つの手続きに分かれますが、上記の財産管理人が、いかなる権限を有するかについては、未だ十分に結論が確定しているとは言えませが、権限外の行為を行う場合は、家庭裁判所に民法第28条の権限外行為の許可を得て行うことになります。

3.遺産分割の審判申し立て
<3-1.遺産分割の審判申し立ての方法>
 共同相続人の中に所在の不明者がいる場合は、民法第907条2項「協議をすることが出来ないとき」に該当する説が多数説です。従って、他の相続人は家庭裁判所へ遺産分割の審判の申し立てができます。その審判を求める具体的方法について、不在者の財産管理人の選任が「必要説」と「不要説」の2説があり、必要説の場合は、前記のとおり、その不在者財産管理人は民法第28条の権限外行為の許可を得て遺産分割手続きを行うこととなります。

 上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?過去のブログでも書いてきましたが、相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。もしご自身の相続人の中に所在不明な者が居ることを事前に気付いていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。
 ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

関連記事

  1. 被相続人がベトナム国籍である場合の相続
  2. 被相続人がタイ国籍である場合の相続
  3. 相続人が居ない場合はどうなるの?
  4. 外国籍の人の相続
  5. 被相続人がカナダ国籍である場合の相続
  6. 相続分の算定方法
  7. 被相続人がブラジル国籍である場合の相続
  8. ブログで相続に関する情報を発信いたします
PAGE TOP