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被相続人が台湾国籍である場合の相続

相続の手続きをする中で、手続当事者(相続人や被相続人)が外国籍であったり日本国籍だが外国に居住をしていたりする相談も多くあります。この場合、各国で法律が異なるため相続の手続きも異なります。2022年8月のブログより「外国籍の人の相続手続き」について書いていますが、今回は、中華民国(台湾のことを言う。以下、便宜上「台湾」という。)国籍の人の相続について書きたいと思います。

【まず始めに】
現在、日本は台湾を正統政府として承認していないため、台湾の具体的準拠法についての見解が分かれることになります。判例通説は、法例28条3項(現:法の適用に関する通則法(以下「法通則」という。)の第38条3項)に「当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。」を類推適用して台湾の法律を適用しています。

【準拠法を確認する】
まず「準拠法」を考えなければなりません。これまでのブログにも書いた様に、法通則第36条に「相続は被相続人の本国法による。」と定めていますので、台湾籍の人の相続では台湾の法律を確認する必要があります。では、台湾の法律にはどの様に規定されているのでしょうか。中華民国渉外民事法律適用法第22条に「被相続人の死亡の時の本国法による。但し、中華民国の法律によって、中華民国の国民が相続人となるべきときは、その中華民国にある遺産について、これを相続する。」と規定していますので、台湾の法律に従うことになります。

【法定相続人の範囲と順位、相続分の確認】
(1)遺産相続人
法定相続人は、配偶者を除くほか、次の順位(台湾民法1138条)があり、同順位の相続人の相続分は均等となります(台湾民法1141条)。また、生存配偶者はいずれの場合にも相続人となり、その相続分は後述(3)記載のとおりとなります。

第1順位:直系卑属(親等の近い者を先とする。(台湾民法1139条))
第2順位:父母
第3順位:兄弟姉妹
第4順位:祖父母

直系卑属には、自然血族と法定血族があります。自然血族は婚姻関係より出生した子(以下「婚生子」という。)と、認知された非婚生子(認知されれば婚生子とみなされる(台湾民法1065条))です。なお、胎児は生まれたものとみなします。次に、法定血族は法院の縁組の許可(台湾民法1079条)により養親子関係になった養子です。ただし、縁組によって他の家の養子となった者は、縁組前血族の相続人となりません。これは、台湾民法1077条は「養子と養父母の関係は、法律に別段の規定がある場合を除くほか、嫡出子と同一とする。」と規定し、さらに台湾民法1083条は「養子は離縁したときから、その本姓を回復し、かつ、その実父母との関係を回復する。但し、第三者が既に取得した権利は、これによって影響を受けない。」と規定しています。以上から、養子は養父母の相続人となりますが、養子縁組後は実方の実父母の相続人とはならないことになります。
なお、民国74年(日本では昭和60年)6月2日以前に相続が開始している場合は、改正前法1142条(現在は削除されている。)に「養子の相続順序は嫡出子と同一とする。養子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1とする。但し、養親に直系卑属の相続人がないときは、その相続分は嫡出子と同一とする。」と規定されていたので注意する必要があります。

(2)代襲相続制度
代襲相続に関し台湾民法1140条は「第1138条に定める第1順位の相続人が、相続開始前に死亡し又は相続権を喪失したときは、その直系卑属がその相続分を代襲相続する」と規定していますので、被相続人の直系卑属のみに認められ、兄弟姉妹の直系卑属には代襲相続権がありません。日本民法第901条2項では兄弟姉妹の子まで代襲相続すると規定していますので、日本民法との差異があることに注意しなければなりません。

(3)配偶者の相続分
配偶者の相続分は、直系卑属と共同相続するときは均等となります。例えば、子が3人の場合は各自の相続分は4分の1となります。父母・兄弟姉妹と共同相続するときは遺産の2分の1、祖父母と共同相続するときは遺産の3分の2、他に相続人がいないときは遺産の全部を取得します(台湾民法1144条)。但し、生存配偶者のある相続の場合には「夫婦財産制度」の規定があり、ケースによっては注意が必要となります。

Ⅰ.夫婦財産制度
夫婦財産制度には、下記に記載する法定財産制と夫婦財産制契約の2つが存在し、民国91年(平成14年)6月26日総統令により大幅に改正されています。

●法定財産制について
台湾民法1017条に「夫または妻は、婚姻前所有していた財産と婚姻後に取得した財産は各自所有権を保有する。婚姻前後を証明できない場合は夫婦の共有と推定する。」と規定されています。

●夫婦財産制契約について
台湾民法1004条に「夫婦は、婚姻前または婚姻後において、契約で本法に定める約定財産制の中から、その一つを選択して夫婦の財産制とすることができる。」と規定され、約定財産制には下記の「共同財産制」と「分別財産制」の2種類の制度が設けられています。

(ア)共同財産制
台湾民法1031条1項に「夫婦の財産及び所得は、特有財産を除き、それを合併して共同財産とし、夫婦の合同共有(合有)とする。」と規定し、同条第2項において「共同財産においては、夫婦の一方がその持分を処分することができない。」と定めています。

(イ)分別財産制
分別財産制においては「夫婦が各々その財産の所有権、管理権及び使用、収益権を保有する」と規定しています。

なお、台湾では、日本と同様に夫婦財産制契約はほとんどなく、多くが法定財産制です。しかしながら、共同財産制の約定がある場合の相続については、台湾民法1039条1項で「夫婦の一方が死亡したときは、共同財産の半分は、死亡者の相続人に帰属し、その半分は、生存する他の一方に帰属する」と規定し、同条2項で「前項の財産分割につき、その数額に別段の定めがあるときは、その約定に従う」とあるため、共同財産制を選択している場合には、その半分(又は別段の定めがある場合にはその内容であるが説明上は半分とする。)は生存配偶者が取得し、その残りの半分に関しては、例えば、相続人が配偶者およびその子2名であるときは、生存配偶者および子2名が均等に相続することになります。

Ⅱ.夫婦間の剰余財産分配請求権(台湾民法1003条の1)の改正
夫婦の一方の死亡、離婚の場合に、夫または妻が現存する婚姻後の財産形成に夫婦の貢献度により生じた剰余財産は双方に公平に分配すべきであるとの趣旨から、台湾民法1003条の1第1項に「法定財産制が終了したときは、夫または妻が、婚姻関係存続中に取得し、現存する法定財産から、婚姻関係存続中に負担した債務を控除した後、余剰あるときは、その余剰財産を均等に分配する。ただし、相続、その他無償で取得した財産は、この限りではない。」と規定し、同条2項に「前項の規定によって均等配分をすることが明らかに公平を失する場合は、裁判所は、その分配額を酌減することができる」とし、同条3項に「第1項の余剰財産額の分配請求権は、請求権者が、余剰財産額があることを知ったときから、2年間行使しないことによって消滅する。法定財産関係が消滅したときから、5年を経過したときも同様である」と規定されているので、現存配偶者が子と均等配分の際に、子が多いときは現存配偶者の取得分が減少するので、この規定を利用して取得分を増額することが可能です。実際問題としては、ほとんどが遺産分割協議(次項(4))によるので、上記の規定をもって争われることは稀だと思われます。

(4)遺産分割
相続人は、いつでも遺産の分割を請求することができます。但し、法律に別段の定め、または契約に別段の約定がある時は、この限りではない(台湾民法1164条)と規定しています。なお、胎児が相続人となるときは、その相続分を留保しなければ、他の相続人は、遺産の分割をすることができず、胎児の遺産の分割に関しては、その母が代理人となります(台湾民法1166条)。

(5)特別受益者の相続分
台湾民法1173条に「相続開始前に、婚姻、分家、営業によって、すでに被相続人より財産の贈与を受けた者があるときは、その贈与価格を相続開始時に被相続人が有した財産中に算入して相続すべき遺産としなければならない。ただし、被相続人が贈与の時において、反対の意思表示をしていた場合は、この限りではない」と規定しています。さらに、同条2項に「贈与価格は、遺産分割の時において、その相続人の相続分から控除しなければならない。」と規定し、同条3項において「贈与価格は、贈与の時の価格によって計算する」としています。この法律は、日本民法903条とほぼ同一の制度となっていますが、日本民法903条2項「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」の様な規定はありませんので、台湾の場合は、贈与価格が相続分を超えているときは、日本の様に特別受益証明書を発行するのではなく、相続人間で遺産分割協議を行い、その旨を協議書の中に書き記す形式を取っている様です。これについて「東京法務局民事行政部不動産登記部門の窓口相談事例に対する回答」によれば、日本の不動産登記について特別受益証明書を使用してもよい旨の回答がなされています。しかしながら、あくまでも台湾民法1173条に基づき作成するのが当然であるので、特別受益証明書というタイトルを付けないよう注意した方が良いでしょう。

(6)相続放棄
台湾民法1174条に「自己のために相続開始があったことを知ったときから、2ヶ月以内に書面で法院に相続放棄の申立てをしなければならず、その放棄によって相続人となるべき者に対しても書面でこれを通知しなければならない。但し、通知不能のときはこの限りではない」と規定されています。

(7)限定承認
限定承認とは、被相続人の負債について、相続人が相続によって得た財産を限度としてのみ弁済責任を負い、相続財産より被相続人の負債を弁済してもなお余剰がある場合についてのみ、その余剰部分を相続できる手続きをいいます。
台湾も日本と同様に「限定承認」が台湾民法に規定されていたが、台湾立法院において、平成21年5月22日、民法修正案が可決され「限定承認」は削除され、その文言は相続の一般的効果としての台湾民法第1148条2項へ移されました。そこで、被相続人が死亡した場合は、自動的に相続の限定承認が適用され、相続人は被相続人の債務に対し有限責任しか負担しないことになりました。

台湾民法第1148条
第1項「相続人は、この法律に別段の定めがある場合を除き、相続開始のときから被相続人に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に属したものはこの限りではない。」
第2項「相続人は、被相続人の債務につき、相続によって得た財産の限度においてのみ弁済の責任を負う。」
台湾民法第1156条
第1項「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続財産の目録を作成し、家庭裁判所に申述しなければならない。」
第2項「前項の3か月の期間は、相続人の請求によって、裁判所は必要と認めたときはこれを伸張することができる。」
第3項「相続人が数人あるときは、その中の一人が第1項の相続財産の目録を家庭裁判所に提出したときは、その他の相続人もすべて申述したものとみなす。」
台湾民法第1157条
第1項「相続人が前2条の規定によって裁判所に申述したときは、裁判所は公示催告の手続によって被相続人の債権者に対し、一定の期間内にその債権を申告することを命じなければならない。」
第2項「前項の一定の期間は、3か月を下ることができない。」

と規定しています。なお、在日台湾人が、日本の家庭裁判所で限定承認をすることは出来ますが、限定承認の債権者に対する公告は、日本法を適用して、限定承認申立人が官報公告の手続をすることとされています。

(8)相続人の不存在
相続人の不存在につき、相続開始時に、相続人の有無が不明であるときは、親族会は、1か月以内に遺産管理人を選定し、法院に相続の開始及び遺産管理人選任の事由を報告しなければなりません。

(9)遺言
行為無能力者及び16歳未満の者は、遺言をすることができません。行為制限能力者は、法定代理人の許可を得ずに遺言はできません。(台湾民法第1186条)
遺言の方式は、自書遺言、公証遺言、密封遺言、代筆遺言、口授遺言となる。(台湾民法第1189条)

(10)遺留分
遺留分につき、直系卑属、父母、配偶者の遺留分は、それぞれの相続分の2分の1、兄弟姉妹、祖父母の遺留分は、それぞれの相続分の3分の1と定められています。(台湾民法第1223条)

【法定相続人が誰になるのかを特定する資料の確認】
台湾は日本と同様に戸籍制度を取っているので、台湾籍の人の相続登記に戸籍を徴収しなければなりません。しかし、台湾の戸籍謄本徴収については、利害関係人でない限り、直接、台湾の戸政事務所に交付請求をすることができません。また、冒頭にも書きましたが、日本は台湾を正統政府として承認していないため、アポスティーユ認証の要否の問題が出てきます。アポスティーユ認証付き戸籍について、従前までは、台湾の戸政事務所で必要な人に関する戸籍謄本を取得し、その戸籍に台湾の地方法院に所属する公証人(民間も含む)から認証を受けます。この認証を受けた戸籍謄本を更に台湾の外交部(外務省)において認証を受けたうえ、日本の台北駐日経済文化代表処(以下「代表処」という。)で認証してもらう方法で、この認証文付台湾戸籍を添付して、日本の不動産の相続登記の相続証明書として使用することとしていました。しかし、平成27年3月24日付にて東京法務局は「戸政事務所発行文書(戸籍及び印鑑証明)について、真正なものであることについての登記官の心証を形成することができるようにすることを目的として、代表処の奥書を求める取り扱いをしてきたところですが、今後は、代表処の奥書がされていなかったとしても、登記官が審査した限りにおいて、他に偽造等を疑うべき特段の事情が存在しない限り、当該戸政事務所発行文書について真正に作成されたものとして取り扱って差し支えありません。」として、戸政事務所発行の認証以外の認証を不要としています。
なお、住所証明書については、台湾戸籍は住所を証明するものでもありますので、そのまま戸籍を住所証明書として利用できます。
では、相続人が日本国内にいる場合は、どの様に被相続人の台湾戸籍の取り寄せをするかというと、相続人の1人が代表処において「授権書」を作成して、この授権書を台湾の代理人へ送付し、被相続人の戸籍を集めてもらうことになります。なお、台湾の代理人(受任者)は台湾在住の人でなければなりません。この授権書を作成する方法として、相続人は写真付きの身分証明書または印鑑証明書を添付のうえ、代表処の係官の面前で授権書に署名して申請する事になります。なお、相続人が代表処に出頭できない場合は、日本の公証役場において、授権書に署名した者が本人の署名である旨の認証を受けることにより出頭せずに代表処にて授権書の認証を受けることが出来ます。

<外国人登録原票>
在日外国人に対して、日本国内で外国人登録原票という制度がありました。平成24年7月9日に廃止されていますが、外国人登録原票には、出生地や国籍、住所や居所、婚姻や子供などの親族関係が記載されているので、平成24年7月8日以前に来日している場合は、相続関係書類として取得する必要があります。

相続手続きと聞くと、亡くなった後の手続きと思われがちですが、上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?ご自身やご自身の周りに外国籍の方が居られ、相続が発生した場合、日本の法律が適用されるのか、適用されないのかを分かっていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。
相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

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