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相続の手続きをする中で、手続当事者(相続人や被相続人)が外国籍であったり日本国籍だが外国に居住をしていたりする相談も多くあります。この場合、各国で法律が異なるため相続の手続きも異なります。これまでのブログで「外国籍の人の相続手続き」について書いていますが、今回は、ブラジル国籍(以下「ブラジル」という。)の人の相続について書きたいと思います。
【準拠法を確認する】
まず「準拠法」を考えなければなりません。これまでのブログにも書いた様に、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第36条に「相続は被相続人の本国法による。」と定めていますので、ブラジル人の相続ではブラジルの法律を確認する必要があります。では、ブラジルの法律にはどの様に規定されているのでしょうか。ブラジル法を確認すると「相続は、財産の性質及び所在地にかかわらず被相続人が住所を有した国の法に従う。」と規定されています(ブラジル民法施行法10)。よって、日本国内に住所を有するブラジル人が死亡した相続については、反致により日本法が適用されます(通則法41条)。ただし、被相続人がブラジル国内に遺産を有している場合で、日本法とブラジル法を比較してブラジル法を使用する方が相続人保護が厚いときは、当該遺産についてのみブラジル法が準拠法となります(ブラジル民法施行法10②)。
なお、今回説明している内容は2003年1月11日施行の改正ブラジル民法(以下「ブラジル民法」という。)に基づいて説明をしていますので、2003年1月11日より前に開始した相続については、改正前のブラジル民法が適用されますので、ご注意ください。
【法定相続人の範囲と順位の確認】
ブラジル法が準拠法とされる場合の法定相続人の範囲及び順位は以下の通りです。
第一順位:直系卑属及び生存配偶者(ブラジル民法1829①)
第二順位:直系尊属及び生存配偶者(ブラジル民法1829②)
第三順位:生存配偶者(ブラジル民法1829③)
第四順位:兄弟姉妹など傍系血族(ブラジル民法1829④)。なお、傍系血族は四親等内に限られ(ブラジル民法1839)、この傍系血族は親等の近いものから順に相続人となりますが、相続人の兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合は代襲相続が発生し、死亡している兄弟姉妹の子も他の兄弟姉妹と共に相続人となります(ブラジル民法1840)。兄弟姉妹及びその代襲相続人もない場合は、伯父母・叔父母が相続人となります(ブラジル民法1843)
第五順位:国庫帰属(ブラジル民法1844)
※生存配偶者は、法律婚関係になく内縁関係であったとしても相続人になり得ます(ブラジル民法1790)。
【相続分の確認】
<第一順位の相続分>
第一順位の相続分は均等となります。ただし、生存配偶者の相続分は4分の1以下になることは許されません(ブラジル民法1832)。例えば、子4人と生存配偶者が相続人となった場合、子A:B:C:D:生存配偶者=3:3:3:3:4となります。なお、生存配偶者が法律婚ではなく内縁関係であった場合、共同相続人である子と法律上の親子関係となるときは上記の通りであるが、法律上の親子関係でないときは、生存配偶者の相続分は子の半分になります(ブラジル民法1790②)
<第二順位の相続分>
第二順位の場合の生存配偶者の相続分は3分の1以下になることは許されません(ブラジル民法1837)。
<第三順位の相続分>
生存配偶者のみなので、もちろん1分の1となります。
<第四順位の相続分>
第四順位の相続分は均等となります(ブラジル民法1843①)が、異父母兄弟姉妹がある場合は、同父母兄弟姉妹の半分となります(ブラジル民法1841)。
【法定相続人が誰になるのかを特定する資料の確認】
ブラジルには、日本の様な戸籍制度が整っておらず、まずはコンタクトが取れる相続人からのヒアリングによって、できる限り相続人の有無を確認することになります。なお、在日ブラジル人が死亡した場合、日本で発行された死亡証明書等をブラジル総領事館等に提出することによって、総領事館から死亡証明書の交付を受けることが出来ます。ブラジルの死亡証明書は、相続人の有無や名前なども詳細に記載してもらえることがあるため、相続人を特定するための資料として有益な書類になり得ます。その他、婚姻証明書や出生証明書の発行を受けることもできます。
<外国人登録原票>
在日外国人に対して「外国人登録原票」という制度がありました。平成24年7月9日に廃止されていますが、外国人登録原票には、出生地や国籍、住所や居所、婚姻や子供などの親族関係が記載されているので、平成24年7月8日以前に来日している場合は、相続関係書類として取得する必要があります。
相続手続きと聞くと、亡くなった後の手続きと思われがちですが、上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?ご自身やご自身の周りに外国籍の方が居られ、相続が発生した場合、日本の法律が適用されるのか、適用されないのかを分かっていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。
相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。