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被相続人がタイ国籍である場合の相続

相続の手続きをする中で、手続当事者(相続人や被相続人)が外国籍であったり日本国籍だが外国に居住をしていたりする相談も多くあります。この場合、各国で法律が異なるため相続の手続きも異なります。これまでのブログで「外国籍の人の相続手続き」について書いていますが、今回は、タイ国籍(以下「タイ」という。)の人の相続について書きたいと思います。

 

【準拠法を確認する】

まず「準拠法」を考えなければなりません。これまでのブログにも書いた様に、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第36条に「相続は被相続人の本国法による。」と定めていますので、タイの人の相続ではタイの法律を確認する必要があります。では、タイの法律を確認すると「不動産」の相続に関しては当該不動産の所在地法に従う(仏歴2481年・法の抵触に関する法律37)と規定され、「動産」の相続については被相続人が死亡した住所地の法律に従う(同38)と規定されています。よって、日本国内でタイの人が死亡した相続については、日本国内の遺産については日本法が適用され、日本国外にある不動産については当該不動産が所在する国の法律が適用されることになります。(なお、タイ民商法典(以下「タイ民法」という。)については日本貿易振興機構(JETRO)のウェブサイトなどを参照していますが、実務に当たっては原文をご確認ください。)

 

【法定相続人の範囲と順位の確認】

タイ法が準拠法とされる場合の法定相続人の範囲及び順位は以下の通りです。なお、生存配偶者は常に相続人となります。(タイ民法1635)

第一順位:直系卑属

第二順位:父母

第三順位:父母を同じくする兄弟姉妹

第四順位:父母の一方を同じくする兄弟姉妹

第五順位:祖父母

第六順位:叔父・伯父・叔母・伯母

なお、先順位の相続人が存命、又は死亡していても代襲相続人が居る限りは、後順位の相続人は相続財産を承継する権利はありませんが、父母については例外的に、直系卑属(第一順位)が居ても、ともに相続人となります(タイ民法1630)。この場合、父母と直系卑属の相続分は均等となります(タイ民法1630但書)。従って、第二順位と言いつつも、父母は実質的に第一順位と言うことが出来ます。また、代襲相続についても、第一順位、第三順位、第四順位、第六順位の相続人に認められ、いずれも、再代襲、再々代襲が認められます(タイ民法1639)。

 

【相続分の確認】

生存配偶者が居ない場合の、同順位相続人の相続分は均等(タイ民法1633・1634②)となり、生存配偶者が居る場合は、以下の通りとなります(タイ民法1635)。

 

<第一順位と生存配偶者の相続分>

第一順位の相続人と生存配偶者の相続分は均等となります。

<第二順位・第三順位と生存配偶者の相続分>

第二順位若しくは第三順位の相続人との間では、生存配偶者の相続分は2分の1となります。

<第四順位・第五順位・第六順位と生存配偶者の相続分>

第四順位又は第五順位若しくは第六順位の相続人との間では、生存配偶者の相続分は3分の2となります。

<第一順位から第六順位が居ない場合の相続分>

生存配偶者のみが相続人となる場合は、生存配偶者が全ての遺産を相続します。

 

【法定相続人が誰になるのかを特定する資料の確認】

タイには、日本の様な戸籍制度が存在しませんが、家族の来歴などが記載される住民票類似の制度(タビアンバーン)が存在します。そのため、相続人の確定には、被相続人のタビアンバーンを確認することが必要となります。このタビアンバーンの原本は、原則として本人(被相続人)が保有しています。従って、日本での相続手続きには、外国人住民票の除票や死亡診断書など死亡の事実を証明する書類とタビアンバーン、下記の外国人登録原票などが必要となります。

 

<外国人登録原票>

在日外国人に対して「外国人登録原票」という制度がありました。平成24年7月9日に廃止されていますが、外国人登録原票には、出生地や国籍、住所や居所、婚姻や子供などの親族関係が記載されているので、平成24年7月8日以前に来日している場合は、相続関係書類として取得する必要があります。

 

相続手続きと聞くと、亡くなった後の手続きと思われがちですが、上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?ご自身やご自身の周りに外国籍の方が居られ、相続が発生した場合、日本の法律が適用されるのか、適用されないのかを分かっていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。

相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

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