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遺産と負債、どちらが多いか分からない場合

相続とは、被相続人の権利だけでなく義務を含むすべての財産を包括的に承継します。従って、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続することになり、自分にとって大切な遺産だけを選んで相続したり、負債だけを相続しなかったりということはできません。そして、マイナスの遺産が多い場合は、これまでのブログ「相続放棄はどの様にする? | 司法書士上野秀章事務所」や「熟慮期間後でも相続放棄はできるのか? | 司法書士上野秀章事務所」で書いたように、相続放棄を選択すればよいことになります。では、プラスの遺産とマイナスの遺産のどちらが多いか分からない場合は、どの様にしたらよいのでしょうか。

もし、この様な事情があった場合に、プラスの遺産で負債を弁済し、遺産が残った場合にだけ相続するという条件の下に相続手続きができたらと考えてしまいます。実は、民法第922条に「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」と規定しており、この様な手続きを「限定承認」といいます。なお、限定承認は、遺言により遺産を承継する場合であっても、遺言により承継する遺産の範囲内で負債を弁済することができます。

 

【限定承認の方法と熟慮期間】

限定承認をするためには、家庭裁判所に対して「限定承認」をする旨を申述しなければなりません。この申述は、前回のブログでも書きましたが、自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内(熟慮期間)にしなければなりません。また、相続人が複数いる場合は、相続人全員が一致して行わなければならないとされています。なお、限定承認を申述する場合、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出しなければならず、記載漏れがあると限定承認が認められないことがありますので注意が必要となります。

限定承認が認められると、遺産の範囲内で弁済を行うための清算手続きが行われることになりますが、まず限定承認をした者は5日以内に全ての相続債権者および受遺者に対して限定承認をしたことを通知し、さらに2ヶ月以上の期間を定めて請求の申出をすべき旨を公告するほか、判明している相続債権者および受遺者に対しては請求の申出をすべき期間を通知します。そして、その期間が満了したのちに、申出のあった相続債権者に対して債権額の割合に応じた弁済をし、その後に受遺者に弁済をすることになります。なお、当該期間内に申し出を行わなかった相続債権者や受遺者は、期間内に申し出た者に対する弁済を行った後からしか弁済を受けることしかできません。

限定承認を行った者は、自分の財産を管理するときと同程度の注意義務をもって遺産を管理するほか、相続債権者等に弁済するため、必要に応じて遺産を競売によって換価することになりますが、競売に代えて家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した価額を支払うことで、その遺産を取得することができ、遺産が人手に渡ることを避けることもできます。なお、相続人が複数いる場合には、遺産の管理と弁済のために必要な行為は相続人の中から選ばれた「相続財産管理人」が行うことになります。

この様にして、清算が行われた結果、残る遺産があれば限定承認を行った相続人がこれを取得することができ、もし不足が生じても、その不足分を自己の財産で弁済する責めを負わないということになります。

 

 

【最後に】

これまでのブログで書いた通り、相続は単純承継だけでなく「相続放棄または限定承認」を検討する必要がある場合があります。そして、相続手続きと聞くと、ご自身が相続人となる場合(親や祖父母の相続)を考えることが多いかもしれませんが、被相続人が「遺言」や「生前整理」をすることで、相続人にスムーズに財産を承継してあげることができるかもしれません。

遺言や生前整理は「相続人に対する思いやり」だと、私は考えています。ご自身の財産を確認して、その財産を誰に承継させたいのかなどを事前に考えることで、生前整理などにもつながることにもなります。

ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、どの様な財産を残し、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみてはいかがでしょうか。

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