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亡くなった方の自筆証書遺言が出てきたと相談を受け、その内容を確認すると「〇〇市〇町〇丁目〇番〇号の自宅を遺贈する」と住所が書かれており、不動産の正確な名称が書かれていないことがあります。この「〇番〇号」と表現されたものは「住居表示」といい、一般的に「住所」として使われているもので、不動産を正確に表現するものとは別のものであることを皆さんは知っていますか?
1.住居表示と不動産の表示(地番・建物所在地)の違い
まず始めに、住所(住居表示)について理解する必要があります。住所の表示方法として、〇〇市〇町〇丁目「〇番〇号」だけでなく「〇番地〇」の様に「番地」となる住所もあります。実は、場所によっては「住居表示」と、不動産を表現する「土地の番号(地番)」や「建物の所在地」が異なる場合があります。ちなみに、私の事務所の住所は「神戸市中央区御幸通二丁目1番6号」ですが、土地の地番は「神戸市中央区御幸通二丁目305番」で、建物の所在地は「神戸市中央区御幸通二丁目305番地」です。また、建物の家屋番号は「305番」となっています。この様に住所と不動産の表示は異なることになります。
そして「番地」は土地の場所を指すものであるのに対し、「住居表示」は建物を指すものとなります。どういう事かと言うと、同一の土地の上に複数の建物が存在することがあります。この場合、住居表示が土地を指すものだとすると、同じ土地上のすべての建物は同じ住所になってしまいます。それでは郵便屋さんが困ってしまいますよね?これは一つの例えとなりますが、それぞれの建物に別の住居表示がつけられています。
このように住居表示と不動産の表示は異なる場合があり、不動産の表示は不動産の登記簿謄本を見れば確認できます。
土地の表示については次の4つの要素で特定します。
①所在
②地番
③地目(宅地、山林、田などの土地の種類)
④地積(面積)
建物の表示については主に次の5つの要素で特定します。
①所在
②家屋番号
③種類(居宅、倉庫、工場など用途)
④構造(木造瓦葺2階建など)
⑤床面積
ところが不動産の表示と住居表示とが異なることを知らない、又は、あまり念頭に置かないまま住居表示を用いて遺言を作成した場合は、建物のみを指しているのか、土地と建物の両方を指しているのか、どのように解釈したらよいのかという問題が生じてしまいます。他にも、2つの土地の上に建物が建っており、1つの土地は庭として使用している場合、その庭は自宅と一体と解釈できるのでしょうか?
2.遺言解釈の方法
遺言は人生最後の意思表示ですから、残された者はできるだけ、遺言者の意思を尊重しなければなりません。従って、遺言者も残された人が誤解する余地がないように、遺言書には、できるだけ明確な記載をするべきです。しかし法律の専門家でない人が自分で遺言を作ろうとする場合、住居表示と不動産の表示を混同して遺言を作成してしまうようなケースも出てきてしまうわけです。このようなことは、公証役場で公正証書遺言の方法で遺言を残しておけば避けられたと思われ非常に残念です。しかし、現にこの様な遺言は存在しています。この様に「〇〇市〇町〇丁目〇番〇号の自宅を遺贈する」という遺言は、建物のみを指していると解釈すべきなのか、土地と建物の両方を指していると解釈すべきなのか、どちらでしょうか。
遺言の解釈として、最高裁判所は「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」と判示しています。(最判昭58・3・18裁集民138・177)
3.判例の紹介
類似のケースとして最高裁平成13年3月13日判決(判時1745・88)があります。
このケースでは「被相続人T所有の不動産である〇区××七丁目60番4号をAに遺贈する」という遺言があったものですが、第一審は、被相続人の財産は本件土地建物の共有部分のみで他に同一性を混同するような財産が見当たらないことを理由として、この遺言を土地と建物の両方を目的としたものと解釈しました。しかし、控訴審は「本件遺言には住居表示が記載されていることから、住居表示の記載は同所所在の建物のみを目的物とするものであると解釈し、その他の事情(本件土地建物が、Tの自宅のみならず相続人らの同族会社の事業所として用いられ、同社の借入金を担保するために金融機関の抵当権が設定されており、本件土地建物なしに同社の経営は成り立たなかった。また、同社の経営の実権を有していた者と、Aとの間には確執が続いていた。)からしても土地については遺贈する意思であったとは解釈できない」と判決しました。
また、上記控訴審に対しての最終判断として最高裁は「本件遺言書には遺贈の目的について単に『不動産』と記載されているだけであって、本件土地を遺贈の目的から明示的に排除した記載とはなっていない。一方、本件遺言書に記載された住居表示はTの住所であって、Tが永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示である。」「そうすると、本件遺言書の記載は、Tの住所地にある本件土地及び本件建物を一体として、その各共有持分をAに遺贈する旨の意思を表示していたものと解するのが相当であり、これを本件建物の共有持分のみの遺贈と限定して解するのは当を得ない。」と判示し、この遺言が土地と建物の両方を対象としたものであったと解釈し、TとAとの間に確執があったか等の事情については「遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る本件においては、遺言書に表れていない事情をもって、遺言の意思解釈の根拠とすることは許されない。」と判示しました。
住居表示しか記載されていなくても、通常は、土地建物を一体として目的とするものと解釈されるものと思われますが、遺言書にあらわれた他の条項の内容等によっては、異なる結論が導かれる可能性もあります。この様に遺言書の作成を検討される際は、記載の方法について専門家に相談することが残された相続人の混乱を減らすことにつながります。
上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?過去のブログでも書いてきましたが、相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。もし、遺言を作成するときに専門家に相談していたら、相続人同士で裁判になるような紛争が起きていたのでしょうか?
確かに、専門家に相談していても、相続人同士の紛争(争族)が起きるときは起きてしまうのだと思います。しかし、可能性を減らすことになるのではないでしょうか?
ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのか、ご自身の相続の準備は問題ないかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。