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被相続人が朝鮮民主主義人民共和国の国籍である場合の相続

相続の手続きをする中で、手続当事者(相続人や被相続人)が外国籍であったり日本国籍だが外国に居住をしていたりする相談も多くあります。この場合、各国で法律が異なるため相続の手続きも異なります。2022年8月のブログより「外国籍の人の相続手続き」について書いていますが、今回は、朝鮮民主主義人民共和国籍(以下「北朝鮮籍」という。)の人の相続について書きたいと思います。

【まず始めに】
外国人登録上の記載の「朝鮮」または「韓国」は、必ずしも在日朝鮮人・在日韓国人の国籍を表すものではありません。これは、朝鮮半島は1948年8月15日に大韓民国(以下「韓国」という。)、同年9月9日に朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)が建国され南北に分断されますが、それまでの外国人登録では、朝鮮半島出身者という意味で「朝鮮」と記載されており、韓国籍であっても「朝鮮」と記載されている場合がありますので注意が必要です。また、二重国籍状態にあると考えたとしても、法の適用に関する通則法第38条に「当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうち、当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうち、当事者が常居所を有する国がないときは、当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。・・・」と規定していて、その常居所地や密接な関係のある国とするという考え方もあります。しかし、在日朝鮮人・在日韓国人の二重国籍状態は政治的原因によるものであって、法適用通則法38条の予定するところではなく、別途の考慮が必要であり、当事者の現在だけでなく過去の住所・常居所・居所・本貫、親族の住所地の他、当事者の意思等を基準に本国法を決定するというものになります。他方、登記実務では、当事者が「韓国人ではない!」としない限り、原則的に韓国法を適用するとの運用がされています。
従って、本人が「北朝鮮籍だ!」という場合であっても、韓国戸籍が存在する場合がありますので、その場合は韓国戸籍を取得したうえで北朝鮮の法律による相続手続きとなります。

【準拠法を確認する】
北朝鮮籍での相続手続きと決定した場合は、まず「準拠法」を考えなければなりません。これまでのブログにも書いた様に、法の適用に関する通則法第36条に「相続は被相続人の本国法による。」と定めていますので、北朝鮮籍の人の相続では北朝鮮の法律を確認する必要があります。しかし、その前提として、日本は北朝鮮を法律上も事実上も国家として承認していませんので、その適用が許されるか否かという問題が生じますが、判例(京都地判昭和31.7.7判時80・11)で、国際私法上、準拠法として指定・適用できる法律は承認された国家や政府の法に限定する必要はないとしています。
では、北朝鮮の法律にはどの様に規定されているのでしょうか。朝鮮民主主義人民共和国対外民事関係法第45条に「不動産の相続については、相続財産の所在する国の法を適用し、動産相続については被相続人の本国法を適用する。但し、外国に住所を有する共和国公民の動産相続については、被相続人が最後に住所を有していた国の法を適用する。」と規定していますので、被相続人が日本国内に住所を有していた場合の相続処理は日本法が適用され、不動産を所有していた場合は、その不動産の所在地の法律に従うことになります。

【北朝鮮の戸籍制度について】
北朝鮮には戸籍制度はありません。ちなみに、北朝鮮国内では戸籍制度が廃止され、公民登録制度(公民証に関する決定(1946年8月9日臨時人民委員会決定57号)、公民証交付実施に関する細則(1946年8月9日)、北朝鮮委員会決定57号による公民証交付事務規定(1947年3月7日人民委員会内務局規則第1号))が創設(制定)されています。
上記の細則25条・26条によれば、公民証には下記の内容が記載されています。

表 紙 公民証である旨
1頁目 姓名、生年月日、出生地、現住所、民族別※(朝鮮人・中国人・日本人等)、写真並びに指紋捺印
2頁目 社会別(例:事務員、労働者、商人、農民等)、公民証を交付した機関名、公民証交付のために提出した証明内容、保安署長印、公民証係長印、交付年月日、番号
3頁目 公民証に登録した名簿番号、姓名、年齢、公民証所有者と親族関係(例:長男、二男、三男、長女、二女、三女、姪甥等)、証明書の内容と登録した機関名
4頁目 親養子縁組証明書親養子縁組とは、日本の特別養子縁組
親父母・特別記録
5頁目 寄留(一時的に知人宅など他の土地に身を寄せること)
裏表紙 注意事項(①北朝鮮内に住居する18歳以上の人民に交付する旨、②他人貸与禁止の旨、③外出時常時携帯の旨)

※1頁目の民族別について、北朝鮮の国籍法によれば、北朝鮮創建以前(1948年9月9日)から朝鮮の国籍を有していた朝鮮人とその子女で、国籍を放棄しなかった者。外国の公民または無国籍であったが、合法的手続きにより北朝鮮国籍を取得した者を北朝鮮の公民としているため、民族の別が記載されます。

【法定相続人が誰になるのかを特定する資料の確認】
上記で書いたとおり、北朝鮮には戸籍制度がなく、また北朝鮮が外国に居住する在日朝鮮人の身分登録をしているかどうかは定かではありません。そこで、朝鮮総連中央本部(正式名称「在日本朝鮮人総聯合会」)が、現在国交のない北朝鮮政府機関の代わりにパスポートの発給事務を行っていることから、日本国内における北朝鮮政府の公的機関としての側面をもっていますので、朝鮮総連が発行した相続証明書について、昭和32年7月19日民三発817号および昭和61年11月以降の東京法務局主席登記官会議において、朝鮮総連の相続証明書といえども特に否定的に取り扱うことのないようにと指導がなされ、その経緯より相続証明書として取り扱うことが可能となっています。そこで、相続人は、居住地の総連支部に①被相続人の死亡証明書、②被相続人の除かれた外国人住民票記載事項証明書(死亡の事実が記載されていれば①の死亡証明書不要)、③各相続人の出生届出、婚姻届出等の相続人である証明書、④本籍が韓国にある場合は、その戸籍。を提出して、各支部に備え付けてある会員名簿と照合のうえ間違いないとされれば、当該書類を添付した「相続証明書発給申請書」が都道府県本部へ、さらに中央本部へと回送され、審査のうえ中央本部が「証明書」を発行することになります。

<外国人登録原票>
在日外国人に対して、日本国内で外国人登録原票という制度がありました。平成24年7月9日に廃止されていますが、外国人登録原票には、出生地や国籍、住所や居所、婚姻や子供などの親族関係が記載されているので、平成24年7月8日以前に来日している場合は、相続関係書類として取得する必要があります。

相続手続きと聞くと、亡くなった後の手続きと思われがちですが、上記の内容を読んで、どの様に思われたでしょうか?ご自身やご自身の周りに外国籍の方が居られ、相続が発生した場合、日本の法律が適用されるのか、適用されないのかを分かっていたら、遺言書の作成や生前整理など、色々と考えることが出来ると思います。
相続手続きは亡くなってからの話ではなく、亡くなる前からのお話です。ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

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