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相続について様々な相談を受けることがありますが、時々「兄弟が親から十分な支援を受けてきたので、親が亡くなる前に『遺産は相続しない』と念書を作成させました。この内容で手続きを進められますか?」と相談を受けることがあります。しかし、このような生前の念書は、相続手続きにそのまま活用できるわけではないことをご存じでしょうか。
【生前の「念書」は法的に有効か?】
相続手続きは、被相続人が死亡して初めて開始されるものであり、その前に作成された推定相続人の「相続放棄」や「遺産分割」の意思表示は、法律上は効力を持ちません。
なぜなら、相続に関する意思表示や手続きは、相続が開始(=被相続人が死亡)して初めて成立するものだからです。相続が始まる前に、推定相続人(将来的に相続人となるはずの人)が財産について放棄したとしても、それは形式的な意思表示にすぎず、法的には無効なのです。
【推定相続人と相続財産の限界】
仮にある者が死亡した場合、その者の相続人となるはずの人のことを推定相続人と言います。推定相続人については、これまでのブログでも書いてきましたし、皆様もご存じではないでしょうか。しかし、推定相続人といっても、相続開始前に先に死亡してしまうとか、相続廃除により相続人の地位を失うことも考えられます。また、相続財産としても、相続開始前に宝くじが当たったり、不動産を売却したり、相続財産に増減が生じることも当然に予想されます。
この様に、推定相続人が被相続人の財産を必ず相続できるというものではありませんし、あると思っていた財産が相続開始時には無かったり、無かった財産が増えていたりすることもあるので、推定相続人であっても、相続開始前に他の推定相続人と遺産分割をすることもできません。また、相続が開始する以前に相続債務の請求を受けるということもありませんので、相続が開始するまでは、推定相続人といっても遺産に対しては何ら権利も有しませんし、義務も負担していません。従って、相続するか否かは、相続が開始したあと(被相続人が死亡したあと)に現実に相続人となった人が、相続財産の総体を確認して判断すべきであり、被相続人の生前に推定相続人同士で、相続の承認・放棄・限定承認などをすることは認められていません。
今回の相談では「他の相続人が沢山の財産の提供を受けてきたので、被相続人が亡くなる前に遺産の相続はしないという内容の念書を書いた」という案件です。上で書いたように、被相続人の生前にした推定相続人の相続放棄又は遺産分割協議の意思表示は無効であり、その念書を使用して相続手続きを進めることはできないという事になります。
【念書の活用方法と注意点】
無効だからといって、念書が完全に無意味なわけではありません。相続開始後に以下のような活用が考えられます。
・遺産分割協議の参考資料として提示
・念書に書かれた意思に変更がない場合は、改めて相続放棄や分割協議を正式に行う
ただし、念書の内容に沿わない変更があった場合、相続争いの火種になる可能性も否定できません。相続に関する意思表示や手続きは、非常に繊細で法律的な判断が求められます。念書だけで安易に手続きを進めるのではなく、司法書士や弁護士などの専門家へ事前に相談することを強くおすすめします。家族間の信頼や想いを尊重しながら、争いのない円滑な相続を目指すことが大切です。
【最後に】
相続手続きと聞くと、どうしても親や祖父母の相続を考えることが多いかもしれません。しかし、「遺言」や「生前整理」をすることで、相続人にスムーズに財産を承継することができます。
私は、遺言や生前整理をすることは「相続人に対する思いやり」だと考えています。ご自身の財産を確認して、その財産を誰に承継させたいのかを事前に考えることで、生前整理などにもつながることにもなります。
ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、どの様な財産を残し、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみてはいかがでしょうか。