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相続人でなくても相続できるの?-特別縁故者-

 過去のブログで相続人や相続順位について書きましたが、内縁関係にある配偶者や縁組をしていない親子には相続権が認められていません。これは、我が国では婚姻届(養子縁組届)が出されない限り法律上の夫婦(養親子)とは認められていないからです。(以下、内縁関係にある配偶者や縁組をしていない親子を「内縁配偶者等」という。)
 被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めたりしている内縁配偶者等は、法律上の夫婦と変わらないにも係わらず、法律上の夫婦ではないというだけで相続権が認められないのは理不尽で不合理ではないでしょうか?
 この不合理性を救済する1つの方法として「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」を「特別縁故者」として、被相続人の遺産の全部または一部を取得させる制度があります。この制度はあくまでも相続人が不存在という特殊な場合にのみ認められている制度で、相続人が存在する場合には内縁配偶者等が特別縁故者であったとしても被相続人の遺産を承継することが出来ません。しかし、相続人が存在する場合であったとしても内縁配偶者等へ財産を承継させる方法もあります。この特別縁故者の制度とはどの様なものなのでしょうか?また、相続人が存在する場合でも内縁配偶者等へ財産を承継させる方法とはどの様なものなのでしょうか?

【特別縁故者とは】
上で書いた通り、民法は特別縁故者について「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」と定めています。前半の2つは例示であるが「その他被相続人と特別の縁故があった者」というのがどのような者をいうのかが問題となります。一般的には次の3つの型に分けることができます。
1.内縁配偶者や事実上の養子のように、被相続人と生計をともにする等、生活関係は密接ではありながら民法上は相続権のない者
2.被相続人を献身的に世話してきた者のごとく、被相続人の謝意を推定し、遺言をしたとすればその人に遺贈したであろうと思われる事情にある者
3.被相続人から格別の庇護を受けてきた者などのように、被相続人が遺言をしたとすれば遺贈の配慮をしたであろうと推測される者
これら上記3つの基準は漠然としていますが、結局は家庭裁判所が被相続人の遺産の分与することを「相当と認めるか」どうかにかかっているということになります。

【特別縁故者に対する相続財産の分与制度】
相続人が存在しない場合、被相続人の財産は最終的には国庫に帰属することになります。しかし、被相続人の意思を推測すれば、国庫に帰属させるより、最後まで献身的に被相続人の世話をした特別縁故者に財産を取得させることを望むと思われます。では、特別縁故者が被相続人の遺産を取得するには、どの様な手続きが必要なのでしょうか?
前回のブログで書きましたが、相続人があることが明らかでないときは、被相続人の遺産は相続財産法人となり相続財産管理人が選任され、以下の流れで相続人不存在の手続きがなされます。
   1.相続財産管理人の選任とその公告(2ヶ月)
   2.相続債権者・受遺者への債権申出(2ヶ月)
   3.相続債権者・受遺者への弁済、相続財産の管理
   4.相続人の捜索の公告(6ヶ月)
   5.相続人が存在しないことが確定した場合、特別縁故者の相続財産の分与申立(3ヶ月以内)
   6.残存財産の国庫への引き継ぎ
自分が「特別縁故者」であり相続財産の分与を受けようとする者(以下「申立人」)は「4.相続人の捜索の公告」期間満了後⑤の3か月以内に家庭裁判所に対して、自身が「特別縁故者」であるとの判断(審判)を求めるための申立てをする必要があります。しかし「4.」の期間までに相続人があることが明らかになれば遺産は相続人が相続します。
よって、特別縁故者として申立ができるのは、被相続人の死後少なくとも10ヶ月を過ぎてもなお相続人が明らかでない場合となります。当然ですが、申立がない限り特別縁故者として遺産を分与されません。また⑤期間内の3か月間を過ぎてしまうと、その申立は不適法として却下されます。

【審判手続】
審判では、縁故関係の具体的内容や濃淡、申立人の年齢、職業、性別、遺産の種類、金額、被相続人の遺志等一切の事情を考慮して、分与の相当性、その程度が決められます。分与を相当とする審判がなされれば、申立人は特別縁故者として相続財産から財産の分与を受けることができます。ちなみに、この分与は相続財産法人からの無償の贈与と解されますが、税法上は遺贈と同じく相続税の対象となります。

【分与後も相続財産が残る場合】
 特別縁故者へ分与してもなお相続財産が残存するとき、または申立てが却下されたときは、被相続人の遺産は国庫に帰属することになります。なお、共有の不動産について、相続人がない場合は、他の共有者に帰属するという規定が民法にありますが、審判がなされた特別縁故者と共有者の優劣では「特別縁故者」が優先されることとなります。

【内縁配偶者等へ遺産を承継させる方法】
相続人が存在する場合や、特別縁故者への分与手続きを経ることなく、内縁配偶者等へ財産を承継させたい場合は、遺言書の作成や贈与・死因贈与契約の活用など様々な対策をとる必要があります。
被相続人の意思は遺言書で残されているのが理想ですが、遺言制度があまり活用されていない我が国の実情をふまえ、その補完として「特別縁故者に対する相続財産の分与制度」があります。ただ、この救済方法も、死後少なくとも10ヶ月以上かかり大変な手続きとなることは容易に想像できますので、この方法は最後の手段と考え、遺言書の作成や贈与・死因贈与契約の活用など様々な対策を、あらかじめ生前に検討して頂ければと思います。

最後に、これまでのブログでも書いてきましたが、相続手続きは亡くなってからの話しだと思われがちですが亡くなる前からのお話しです。もし相続人が存在しないことが事前に気付いていたら、もし遺言書を作成していたらなど、色々と考えることが出来ると思います。
 ご自身と、ご自身の大切な人のために、相続人が誰になるのか、どの様な相続財産があり、どの様な手続きが出来て、誰に何をどう相続させたいのかなど、生きている間に検討してみては如何でしょうか。

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